マフラーを投げ捨てられる夜の海

立つて寝て筏の上の三悪人

枯葉踏む背に楽隊を乗せた象

オーロラを蛇かと思い飛び跳ねる

土管から我を呼ぶ声クリスマス

町を出る冷たい火事にあたるため

雷を真似て斜めに走る妻

野うさぎを見失う日にまた還る

茨の庭の祖母がふかふかだった頃

灰色の靴下を手に熊のふり

にんにくがにんにくのなかで夜香る

からっぽの船でよく鳴るヴァイオリン

ふと仰ぐ長距離走の冬空に

鈍色の輪の連なりや鯉太る

悪筆の少女待つとき白椿

木枯しを背にすぐ止まる腕時計

水晶の木々狼の影が散る

寂しさに飽き指に巻く箸袋

屑鉄の城の玉座に冬日向

光あれ！　なければないで眠るけど

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（TEXT BY　前島鵞朝）