ティンカーベル　両手に煉瓦をつかんで怒りの在りかを探しているよ

水甕の蚊の子ほつほつ息をせり

透明の男爵立てり雨の土間

紫陽花や夜毎盛りのまま石に

旅果てて土くれを投げ合えばいい

神気来る写真の瀧の遠くより

人刺す手飯食うときは箸持つ手

出支度や蝉喰い小町香袋

子規三鬼答えの出ない五七五

雨、頭蓋に染み、浸み込んできて睡（ねぶ）い

水平の詩として我は寝そべりぬ

風鈴や眼のうらがはをぢつと見る

父二人碁石の雨が二階より

白壁に叩きつけたる夏の影

蝉時雨蟻俺猿の順に死す

夏雲や我のうちにも水の国

寄る辺なき私にシュノーケル迫る

夏戦（なついくさ）はまぐりの吐く夢のなか

満ち潮や寝たふりをしつ敗戦日

みつ豆のはしごを迷ふ喪の帰り

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（TEXT BY　前島鵞朝）