安息日アリクイの目に雨の粒

石の家居眠りがちな犬居留守

裏返りつつ麗らかやウシガエル

襟立てて駅長絵具箱を焼く

おかえりとおやすみお湯をためる音

火星欠け花瓶の影の傾けり

気鬱なる木こり麒麟を切り刻む

暮れかけてくるり鉄（くろがね）黒つぐみ

煙立つ境内気配消すけもの

木霊凍る甲州街道午前二時

錯乱を囀る柘榴細雪

神話と獅子と地雷しずかに眠る国

睡蓮の脇水練の子が過ぎる

咳をして隣の席の人も咳

そり滑りコースを逸れて空の青

高殿の炬火（たいまつ）絶えて滝の行

千歳飴得てちからびと散り散りに

釣り舟を連ね月島秋津島

天竺の天動説は手に負えず

との曇り土地神とおく通る音

なぞなぞや七回目には仲直り

逃げろ逃げろ虹落ちるぞと偽教祖

濡れ縁にヌードのぬり絵水ぬるむ

寝違えて猫型ロボットねじ緩む

のがれ来て能登の名のみの野辺送り

磔（はりつけ）も半信半疑はぐれ雲

ひぐらしや引っ越し日延べ冷やの酒

深爪やファウル振り逃げ風来坊

べうべうと平野を渡る偏西風

牧人や滅びの星にほくそ笑む

松取れてまだ独楽回す摩利支天

道草の緑になくす耳飾り

紫のムカデ無数に武蔵野に

迷宮の上に名月目出し帽

木星が燃えて物干し台の上

野営地の闇優しさに病む家守

夕暮れの床這うユダの幽霊が

よそ見するうちに妖魔と夜逃げかな

洛陽へ駱駝の列がラム運ぶ

陸亀の背に竜宮の綸旨あり

留守番のルカにマルコが縷々語る

玲瓏なレモンあれかしレクイエム

路線図を七色に塗る露店商

綿菓子を手に綿入れの父笑ふ

TEXT BY　前島篤志