溶けかかる泥の女よ乳立派

　　回送の黒き列車が海の駅

　　私の手を離してほしい夏の闇

　　生きている誤解美し水泳部

　　冷房を出てなまぬるきみづとなる

　　台風の筆触関東に鮮やか

　　横たはる風の重さや鉄の橋

　　蝸牛自分をあまり見つめない

　　姪の名を鬼寅（キトラ）とつけて叱られる

　　白桃のはずむヒップを仏前に

　　立ちしよんもままならぬ世ぞかがよへる

　　地に平和動輪広場に猿回し

　　こころとかたましいだとか迎え酒

　　彗星や残りの髭はいつ剃らむ

　　監禁の小さき窓に遠花火

　　雨雲に呑み込まれたらおちついた

　　氷水ほたるの里の遠ければ

　　蝶箱の夥しき死しずかなり

　　空襲の夢が覚めたら帰ります

　　水底の安住の地で晩夏かな

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（TEXT BY　前島鵞朝）