生き死にの水面に鯉の口開く

咳止めの切れる予感や昼の月

硝子戸の雨粒たどる冬の旅

弱り目に鳥目魚の目親知らず

ロケットに鞠が転がり在る不安

南瓜帽失意の先生には似合う

酒飲むな飲めば振り子がゆらゆらと

鵞鳥ペンかざして飛ぶにやや足らず

かえるの姫かえるの王子踊ります

エデンからつい愚痴の出る蛇の列

約束の土地いちめんにもぐら穴

晩餐会マスクのままのユダ怪し

境内を走る福助手に吹き矢

灰をまく老人といて春隣

つぶやきの煙は何処へ冬銀座

雨の旗心はゆるくたなびけり

割り箸の塔傾くと見えて立つ

掌の大きい方が光砂汲む

眼疾や鳥といふ字の降りしきる

朧月おおはまぐりの帰り道

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（TEXT BY　前島鵞朝）