少年の髪臭ければ海の御子

雨雲がコップに溜まる平湯郷

谷一つ一族の骨鎮まれり

暗がりに慣れているなり鈴の玉

時雨るや乾電池みなU字型

蓬屋や猫が額をまた通る

解き終えて校舎に栗の落ちる音

鰯雲その一片が焚かれた書

皿舐めるもののけ居たり菊の宴

会社出て思い思いに雲跳ねる

自分にはびっくりするほど価値がない

阿賀野路や青磁の如く霧光る

霧を出てまた霧に入る秋の人

白線をまたいで仰ぐ秋の邪飛

かきもちを食う妻だけがいて濃霧

師の召した毒杯濯ぐクリスマス

さかだちで十四まで聞く除夜の鐘

春を呼ぶための磁石を奪われる

夢の中で虎書けなくて喰われけり

いとへんにふゆ糸杉に雪積もる

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（TEXT BY　前島鵞朝）