今すぐ飛べるロケットはなく夏籠り

霧の峰祖父たちの列降り来たる

南風よく陽に焼けし祖父の霊

月蝕や本を読むのに支障なし

祖父の眼に四角い光甲子園

八月の楕円の窓に顔三つ

ビル冷えて空の向こうに鳴る花火

失踪したしホットなゼリーかき分けて

アリアドネ角曲がるたび違う地図

原爆忌毎日違う水を買う

紫の草原燃えて立つひばり

壺に手を入れ空中に居る心地

バターを口へ優雅に運ぶ叔母の指

道迷う晩夏断続的に海

不機嫌な猫が増えゆく土用波

出たばかりの月だ家路を見失う

夏光る原に微量の放射能

放課後の楕円を回る友二人

車線変更さして意味なく夏暮れる

冷え切りて回転木馬秋の雨

TEXT BY　前島篤志