自転車の籠に黄の薔薇赤の薔薇

まだ靴が鳴る高い山強い雨

城跡に登れば家出する心

今日も薄暮に恋の灰降る積らねど

恋愛の蓋を開けたり失くしたり

葉桜の下住み替はる箱の家

歯を病みて五月台風二つ来る

花食い女水に浸して聖五月

連星やつひに死者には逢へずなり

戦さあるやコートに二冊文庫本

手裏剣を投げて一人の坂つづく

五月雨の降り残したる箱の中

星盗むたび共犯者いなくなる

はりぼてのＵＦＯ贈る水見舞

風邪引けど思春期蜂に刺されても

沈みゆく万年筆よ青ナイル

連休やしづかに終はるメロドラマ

女生徒の巨大なリュック終電車

自販機の内と外とで冷えてゐる

キング・オブ・ルクセンブルク不意に雨

TEXT BY　前島篤志