紫陽花や握りこぶしを二つ分

こえとおと汽水に虫の音のながれ

京王線揺れるとこ来てみな揺れる

吉野家の牛並捧げ黒人来（く）

大柄の娘震わす林檎園

夏の気が曇夜（くもよ）のビル街にて迷う

東京が原野（はらの）に戻る葉落ち月

明日（あした）のパン胸に北与野南与野

青信号の明滅が降る蝉時雨

焼きそばの箱を洗つて海支度

猛暑なり聖者の庭の瓜生（な）らず

園丁の円く寡黙に刈り込まれ

短パンの王段ボールの城に雨

でたらめの映画のあらすじ云えば波

うすのろ二人花火がすんだ町の風

すこし雨すこし話して夏終わる

楽浪（ささなみ）や見渡すばかり青信号

石段に開けないままの缶ビール

スーパームーン仰げば落花したたりぬ

秋の雲ちぎり別れる別れない

TEXT BY　前島篤志