縄文の指紋輝く雪解（ゆきげ）の森

黙しつつ震え合う枝冬木立

大木のうろに籠れば虹二つ

インディアン諸語辞典から眞神の香

霧の橋渡れば梅のいよよ濃く

陽炎のなかの私が泣きじゃくる

陽炎を二つに斬れば青法師

陽炎をゆく人なかば幻に

春雷に気付かないふり質屋猫

菜の花と質の看板箪笥町

春寂し甘酒進上雨進上

滝のごと嘘つく人と蓬摘み

蛇喰いの女に巻かれ遍路宿

立ち漕ぎで天文台の前の坂

天命反転住宅前のバスが来ず

暴れ咲く男雛の横に花サボテン

蝋石で路地に間取りを描く迷子

梅薫るさて行くべきかこの坂を

火の玉を盗まれ夜毎足冷える

ピアニストどの指からも雷（いかずち）が

TEXT BY　前島篤志